電脳遊戯 第8話


ルルーシュとC.C.は、スザクが来てからずっと同じ事をただ繰り返していた。
C.C.が言うままにルルーシュが動き、そしてやり直す。
意味が解らないとスザクは思わずC.C.を睨むつけるのだが、彼女には何か確信があるのか、その表情は真剣で、視線はモニターを凝視しており、口を挟むのは憚られた。

「ルルーシュ、もう一度だ。今度は左足から」

C.C.は何やら白紙にたくさんの文字を書きなぐりながら、ルルーシュに言った。
ルルーシュは了承の意を示した後、まっすぐ前を見、左足を動かした。
後ろに。
左、右、左、右と、振り返る事無くゆっくりと後ろに歩く。

「待て、とまれ。・・・よし、あと2歩下がれ。右足だ。今度は右を向け、体ごと右にな」

スザクはロイドの席に着き、ルルーシュの動きをじっと見つめたが、何も変わった様子は見られなかった。何か変化が見えるのか、あるいはただ試しているだけなのか判断はできないが、ルルーシュはC.C.に従うらしく、その言葉通り体の向きを変えた。

「ああ、だめだ。もう一度だ。正面を向け」

ルルーシュは嘆息した後、言われるがままに正面を向いた。
そしてまた左足から後ろへゆっくりと下がる。

「まて、とまれ。・・・よし、2歩下がって今度は左を向け」

まるでタイミングを見計らっているように制止と進行の指示を出した後、先ほどとは逆の方向を指示する。
そして当然ではあるが、通路の左を向くと、正面にあるのは壁となる。

「・・・右足から、下がってみるか。まず1・・・まて、戻れ!」

C.C.の言葉に即座に反応したルルーシュは、表情を変えることも、後ろを気にする事も無く、下げようとしていた足を戻した。
ルルーシュが足を置こうとした場所。
右足が床に着きそうになった時、突然そこに大穴があいたのだ。
底など一切見えない暗く深い穴だった。
音もなく突然現れたそこに、右足を下ろしていたら間違いなくバランスを崩し、落ちていただろう。
スザクは思わず息を呑んだ。
数秒後、突然現れたのと同じく、穴は突然消えて元の何も無い床に戻った。
C.C.はやはり何かに気づいたのだ。
でなければ突然現れたこれに反応できるはずが無い。

「もう一度だルルーシュ」

そういうと、ルルーシュは再び正面を向き、通路の中央に立った。
そして先ほどと同じように後ろへ歩き、左を向く。

「左足だ」

C.C.の言葉に今度は左足を下げる。
穴が開くことなく、足は床に着いた。

「よし、そのまま、ゆっくり歩け」

ルルーシュは言葉の通り足を進める。だが、その先は壁があるだけだ。だが、C.C.はじっと画面を凝視するだけで、ルルーシュに制止を呼び掛ける気配は無い。

「C.C.」

このままではぶつかる。
そう言う意味を込めて名を呼んだが、スザクの存在など見えない、声など聞こえないという様に、画面に集中していた。

『スザク、黙っていろ』

真剣な声音で、ルルーシュが告げた。
今のお前は役立たずだ、邪魔をするな。そう取れる言葉に、ぐっと唇をかんだ。

「・・・そのまま、進め」
『解った』

壁。
当然C.C.もルルーシュも解っている。
だが、C.C.はルルーシュの足を止めることなく、進ませた。
そして、その背が壁に触れると思われたその瞬間。
それまでルルーシュを取り囲んでいた純白の通路は消え去り、緑あふれる草原に立っていた。
まるで、最初からそこにいたかのように、大草原の中心に。
爽やかな風が吹き抜け、漆黒の髪が揺れた。

『・・・出られたようだな』

ルルーシュはほっと安堵の息を吐いた。

「そのようだな。だが、油断するな」

今度は危険な生物がいる可能性もある。

『解っている。少し辺りを調べてみるか』

そう言うと、ルルーシュは慎重に辺りを見回した。
空を見上げれば青空。
心地よい風が吹く草原。
草の高さは足首ぐらいか。
画面上で確認しても、地平線以外何も見えない。
見渡す限り、草原しかないのだ。
さてどこから手を着けるべきか。
右か?左か?前か?後ろか?
目指すべきものが無いため、思わず途方に暮れた。

「待てルルーシュ。休めるなら今のうちに休んでおけ」
『・・・それもそうだな。ロイドとセシルも休ませなければ・・・』

今までは5分と休む事が出来なかったため皆焦っていたが、休憩が取れるなら一息つける。念のため、いつでも動けるよう身構えた状態で10分その場に立ち止まって見たが、変化は無かった。

「ここは時間制限がないらしいな?幸い見晴らしのいい草原だ、何かあったら教えてやるから、眠れるなら今のうちに寝ておけ」
『・・・そうさせてもらおう』

ルルーシュは疲れたと言いたげに、草むらの中に腰をおろすと、空を仰ぎ見る形でごろりと横になった。
相当疲労していたのだろう、そのまま本当に眠るつもりのようだった。
ルルーシュが横になった後も辺りを警戒していたC.C.は、何も変化が起きない事を確認し深く息を吐いた。

「枢木、10分ほど席をはずす。何かあったら呼べ」

シャワーでも浴びて気分転換してくる。
飲み物も欲しいしな。
画面を凝視して疲れたのか、こめかみを揉みながらC.C.は席を立った。

「解った」

既に背を向けていたC.C.はスザクの返答に、もうしゃべるのも辛いのか、手を振ってこたえた後寝室を後にした。
C.C.が出たのを確認した後、スザクは視線をルルーシュへ戻した。
画面の向こうのルルーシュは、まるで毛足の長い緑色の絨毯の上に横になっているようにも見えた。
純白の皇帝服を身に纏い、地面に倒れている姿は、まるで未来を、ゼロレクイエムの後を示唆しているようで、スザクは眉を寄せた。
その日が来たら、この白い服は鮮血に染まる。
白はブリタニアの色でもあるが、理由はそれだけでは無い。

間違いなく、ルルーシュは死んだ。
ゼロが倒した。
それを周りに見せつけるための、白。
そのための死に装束。
その衣装をまとい、死んだように眠る姿に、悪趣味だなと、思わずつぶやいていた。

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